「筋トレには変化が必要である」という説があります。
僕も、この説には大賛成な人間で、たとえば大胸筋を鍛える場合、週ごとにプッシュアップやバーベル・ダンベルによるベンチプレスと切り替えていくものです。「筋肉に異なる刺激が加えることで、筋肉が成長しやすくなる!」…っていう理論で、筋肉はすぐに同じ刺激に慣れるため、ひとつの部位ひとつとっても、多種多様のトレーニングをしていこうという考え方です。
ですが、否定的な意見もありまして、「筋トレには、多様性を求めない方が良いのかな?」っていうことを、今回は解説していきます。
筋トレのバリエーションと単一による筋トレ効果の差異
これは2019年に出た、ちょっと前の調査になるのですが、最低でも2年の筋トレ経験を持つ21名の健康な男性(年齢 = 23.4 ± 3.5歳、体重 = 77.5 ± 11 kg、身長 = 1.78 ± 0.05 m、体脂肪 = 13.6 ± 2.5%、除脂肪体重 = 86.3 ± 2.5%)を対象に実験をおこなったものがあります。この実験では、
- 実験期間中、単種類のメニューの筋トレをおこなうグループ
- 実験期間中、多種類のメニューの筋トレをランダムにおこなうグループ
の2グループに分かれてもらっております。
両グループとも筋トレは6種類で、それぞれ3セットずつを実施(1セットは6~12RMの範囲)。このトレーニングを週4回で8週間おこない、どういった差が生まれたかを評価していきました。もちろん、食事による交絡の可能性を避けるため、被験者は、最低 2g/kg のタンパク質摂取と、等カロリー食または若干のエネルギー過剰を摂取しながら、普段の食習慣を維持するよう指示しております。
ちなみに、どういった筋トレメニューかと言いますと、
- 月曜日と木曜日:上半身のトレーニング(ベンチプレス、ペンドレー ロー、ショルダー プレス、ラットプル ダウン、ダンベル フライ、ダンベル プルオーバー)
- 火曜日と金曜日:下半身のトレーニング(バック スクワット、デッドリフト、レッグ プレス、ヒップ スラスト、レッグ エクステンション、レッグ カール)
- 多様性グループは、80 種類の異なる筋トレメニューをコンピューター データベースからランダムに選択される
といった感じです。
肝心の結果と言いますと、
- 大腿部の筋肉量、体組成の変化、筋力発達(1RMベンチとスクワット)において、グループ間に有意差は確認されなかった。
- 多様性グループは、筋トレに対するモチベーションが中レベルの有意差で増加した。
といった具合で、多様性を持たせると内的動機づけが上がるものの、普通に筋トレしている人と比べて大きな違いが出るわけではないというわけです(要は、多様性を持たせるメリットは、単に“飽きない”という点だけ)。深掘りしていくと、この実験のデータでは、同じ筋トレメニューを繰り返しおこなった方が良い可能性が出てきております。2つのグループの絶対的な変化を比較していきますと、
- 同じメニューの筋トレをするグループの方が、大腿四頭筋が大きく統計的に有意に筋肥大していた (EXP: p <0.05、ES = 1.43、95%CI = 0.4、2.42、CON: p <0.05、ES = 1.03、95%CI = 0.19、1.83)。
- 同じメニューの筋トレをするグループは、平均して体脂肪が少し減少しているにもかかわらず、体重やBMIがより増加していた。
- 同じメニューの筋トレをするグループは、筋力の増加についても同様の結果にあった。
- 他方、多様性グループは、体脂肪の増加が大きめに出ている。
といったように、筋肥大や体脂肪狙いなら、同じ筋トレをし続けた方が効率が良さそうな印象です。
このような現象が現れた理由については、この実験では不明とされております。しかし、筋トレを固定した方が優勢かもしれない理由としては、次のような考察がされております。
- 筋損傷が安定しているため回復が簡単:筋トレに多様性を持たせすぎる、毎回のトレーニングで新しい刺激が起きるため筋損傷が大きく、それだけタンパク質の分解が促進され、回復時間が長くなってしまう可能性がある。
- 進捗のモニタリングと漸進的過負荷の実施が簡単:固定された筋トレでは、自分の成長が簡単にモニタリングできるため、漸進的過負荷をしやすくなり、トレーニングの効果を最大化しやすくなる可能性がある。
- トレーニング強度の管理が簡単:固定された筋トレは、トレーニングの強度管理がしやすく、計画的に負荷を上げていけるため、筋力や筋肉の成長を効果的に促進できる可能性がある。
また、研究チームによると、
エクササイズのローテーションが頻繁すぎると、筋肉の成長と強度が多少損なわれるというトレードオフがあるかもしれない。しかし、トレーニングへの動機付けが弱い人物なら、定期的に種目を変化させることで、動機づけの維持に役立つ可能性があることを示唆している。
もし、これらの結果を最大化したい人物がいるのならば、変化させるエクササイズの種類を制限すると良いのかもしれない。考えられる解決策としては、より複雑なフリーウェイトエクササイズ(スクワット、デッドリフト、ローイングなど)をトレーニングサイクル全体を通して定期的にローテーションし、自由度が限られ高度な運動学習を必要としない動作(レッグエクステンション、マシンプレス、アームカールなど)に変化をつけることを推奨する。
最後に、重要な点として、エクササイズのローテーションについては、個人のニーズや能力に注意を払わずにランダムでおこなわれたことである。エクササイズの選択を生体力学的、生理学的、人体測定学的要因を考慮して注意深く操作する個別プログラミングによって、筋肉の適応をさらに高めることができる可能性がある。
とのこと。
まず、介入期間が比較的短い (8 週間) ため、筋トレに慣れているとはいえ、意味のある違いを認識させるのに十分な時間がなかった可能性があります。なので、長期的にどのような変化が出るかわからなく、この実験結果だけで多様性のある筋トレに意味があるかをジャッジすることができません。また、各個人で求めているものの違いに注目し(たとえば、健康目的なのかスポーツのパフォーマンス向上が目的なのか)、それに応じてメニューを決めることで、結果が変わってくる可能性が大いにあるということです。
そして、「飽きやすいからメニューを変えつつも、結果にもこだわりたいっ!」って言う人には、複雑な動作の筋トレは変えず、簡単な動作の筋トレだけ変えることをオススメしてくれております。いろいろと書きましたが、筋トレメニューを考えるのが面倒なら、決まったメニューをこなしていっても問題ないって感じです☆