よくサスペンスドラマで、主人公が復讐が動機の殺人犯に対して、「復讐なんて良くない!そんなことをして、あなたの大切な人が喜ぶのか!?」と説得をするシーンがたびたびあります。
こんなことを書く必要はないのですが、僕は綺麗事が嫌いで、主人公は犯人の気持ちを理解しているのか、疑問に感じてしまいます。幸いなことに、僕自身は、そこまでの経験はないものの、悪意を向けられたら復讐したい気持ち自体は湧き上がるものです。僕も人間なものなので、「復讐したい!!」という気持ちを完全に否定することは難しいですね。
“復讐”という大仰な表現でなくとも、嫌なことをされたら仕返しをしたくなるのが人間の性。果たして、そんな気持ちは、本当に良くないものなのか?
個人的には、湧き上がってしまった気持ち自体は仕方ないと思うものの、なんとか折り合いをつけていくしかないと思っています。では、科学的には、どのような見解になるのか、見ていきましょう。
「復讐心」と「許容の精神」における心的健康への比較
復讐心がもたらす心的健康への影響は、昔から研究がおこなわれております。
サスペンスドラマでよくある、「復讐に、なんの意味がある!?」という名台詞のとおり、「復讐」に対する「許し」のマインドが対比となっておりますが、そのあたりも研究者たちは調査してくれています。数多くある、「復讐」と「許し」のマインドがもたらす心的健康の違いをみていきましょう。
- 2015年、ウィスコンシン大学のロバート・エンライト先生の研究では、心的被害を受けた被験者を集め、復讐心が強い人と、許容の精神が強い人を比較した。その結果、両者とも脳のコルチゾールというストレスホルモンのレベルは同等であったものの、復讐心が強い人は抑うつ症状が大きかったのに対し、許容の精神が強い人は抑うつと相関せず、反対に抑うつを統計的に有意に減少させる効果が見られた。
といったように、基本的に「復讐なんて良くない!」という結論が、実際のところです。
やっぱり嫌なことをされたのだから、一時的に強烈なストレスがメンタルにかかってしまうのは当然です。でも、「復讐心」はいつまでたってもそのストレスからは逃げられなく、その嫌なことを「許す」ことで、抑うつ状態から脱却することができるみたいです。
そして、
- 2022年、ピッツバーグ大学などの研究では、参加者のうち半分に「同僚から嫌なことをされた」ところを想像してもらい、そのうえで相手を許すか、同僚に復讐するかを選択させた。その結果、同僚への復讐を選択した参加者は、「非人間化状態」(自分のことを、「私は劣った存在で、表面的で冷淡な人間だと考える状態)におちいり続けた。一方で、同僚を許すことを想像した参加者は、自分を人間らしいと感じ続けた。研究チームは、「相手を許した人は、自分が道徳的な価値観に沿って行動したと感じ、それによって人間性を取り戻したと感じることができたのだろう」とコメントしている。
とし、復讐心したい気持ちの強くなると、「復讐心に取り憑かれた鬼」と化してしまうのだとか…。
それに対し、「許し」は復讐心に取り憑かずにすみ、人間として保つことができるのだそうです。
また、
- 2017年の広東白雲大学などの研究では、「復讐」と「許し」の心的健康への効果を比較しており、短期的には両者とも怒りの感情を減少させた。しかし、長期的に怒りの感情を減少させる効果があったのは「許し」のみだった。それと同時に、「許容の精神」がない人ほど心的苦痛が慢性的に続くという結果が報告されている。
- 2014年のセント・アンドリュース大学などの研究では、被験者に、「パートナーの浮気」「職場の同僚に濡れ衣を着せられた」「友人に嘘をつかれた」などの場面を想像してもらい、その後で、相手を許す場合と、相手に復讐する場合の2パターンを想像させた。その結果、相手を許したほうが、復讐を選ぶよりも他者の悪意を忘れるのが早かった。これについて研究チームは、「許しによって嫌なことを思い出す回数が下がり、それがあってか、嫌なことを早く忘れられるのだろう」とコメントしている。
といったこともあり、悪意を向けてくる相手のことを「許す」ことで、怒りの炎が鎮火することができる様子。
しかし、実際のところ、一方的に向けてくる相手の悪意を簡単に許すことは難しいのも、確かな事実です。
- 2019年のアデレード大学などの研究では、「復讐」と「許し」の心理的な効果を調査したところ、両者とも不当に扱われた人にエンパワーメント(活力)を与え、特に復讐は高いレベルでエンパワーメントを与えることがわかった。しかし、復讐の活力アップは不均衡なのに対し、許しは一貫して被験者をエンパワーメントをもたらす効果がある。
といったように、復讐心は瞬間的で強力すぎるモチベーションがあることがわかります。
とはいっても、総合的に見れば、「許容の精神」のほうがメリットが大きく、復讐は「燃え尽き症候群」のような状態に陥るのが定番です。一瞬の爆発力がある復讐心に意識を奪われてしまうのですが、メンタルがやられてしまうので、止めた方が良いのが明確ですね。第一、加害者に復讐したとして、悪意を向けてきた加害者は、往々にして被害者ムーブをしてくるので意味がありません。
だからといって、なんでもかんでも許してしまったら、それこそ相手はやりたい放題です。
あくまでも、「怒りの感情への向き合い方」の話しであって、相手の悪意に対しては、それ相応の態度で臨むのがベストです。これは復讐という動機ではなく、加害者側の不当な行為に対する自身の感情や要求の表明は、しっかりとしていきましょう☆
【参考文献】
[Forgiveness therapy: An empirical guide for resolving anger and restoring hope.]
[Rehumanizing the self after victimization: The roles of forgiveness versus revenge.]
[Turn the other cheek vs.a tooth: The reducing effects of forgiveness and revenge on anger]
[Forgiving You Is Hard, but Forgetting Seems Easy: Can Forgiveness Facilitate Forgetting?]
[When transgressors intend to cause harm: The empowering effects of revenge and forgiveness on victim well-being]