昔からあるアドバイスで、「ストレス耐性が高い人は、物事に対して、それほど期待していない。」というものがあります。
ストレスをため込みやすい人は、物事に対して自分の期待通りにいくことを願っているから、期待通りにいかなかったら「裏切られた!」といった気分になる。だから、「あまり期待しない方が、精神衛生的には良いんだよぉ~~…。」いった感じです。意図的に期待値を下げる方法を「ブレイシング(Bracing)」というのですが、この期待値を敢えて下げる方法は、本当に効果的なのか?
今回は、そのことについて深掘りしていきます!
「期待しない」ことによるメリットとデメリット
これは2024年に出た、マイアミ大学などによる研究チームによるもので、625名の大学生を対象に実験がおこなわれました。
この実験では、学生たちに4回の試験を受けてもらい、それぞれの結果を待つ間に、どのような感情や予測をしたのかを記録してもらったものとなっております。まず、結果から申し上げますと、
- ネガティブな予測が強化される:期待値を下げた学生は試験が進行するにつれて、どんどん期待値を下げる傾向が見られた。この現象は、試験が進むにつれて顕著に現れた。
- ネガティブな感情が予測に影響を与える:試験の結果を待つ間、不安や苛立ちといった負の感情が強い学生ほど、次の試験の点数を悲観的に予想する傾向があった。
予め期待値を下げておくことで、多少は感情のダメージを軽減することができます。しかし、それが大きく外れた場合、つまり「期待してはいなかったけど、思っていたよりもはるかに悪い結果」だと、かえって感情のダメージが増大するそうです。
そもそも、意図的に期待値を下げる「ブレイシング(Bracing)」には、以下のような欠点があることがわかっております。
- 未来を正確に予測する能力が低下する:期待値を下げる思考を繰り返すと、良い結果が起きたときに「期待よりも良い結果が得られた!」というポジティブな感情が起きにくくなり、ネガティブな結果に対して過剰に反応するようになる。
- 「期待が結果に影響を与える」という誤解を招く:期待値を下げる思考を繰り返すと、ポジティブな思考が結果に悪影響を与える、「マジカルシンキング(魔法的思考)」が強化されてしまう傾向にある。結果として、何かに期待することそのものを回避するようになる。
なので、「期待した分だけショックが大きいから、始めから期待しない方が得だよ~…。」というのは、この研究だけで判断すると、役に立たないどころか、むしろ悪影響を与えるアドバイスになるようです!
「物事に期待しない」というマインドセットは、
- 感情の落ち込みが継続する:期待への失望感を抱き続けることで、結果をよりネガティブな方向に予測し、行動が消極的になる。
- 学習の機会を奪う:期待通りにいかなかった場合、それに対する反省や試行錯誤の機会を失い、未来予測の精度が低下する。
期待値を下げるアドバイスは、短期的には効果があるかもしれませんが、長期的に見ると、目標達成の確率を下げてしまうかもしれません。
一時のストレスを回避するのならいいでしょうが、それを何度もおこなうと、それは単なる「悲観主義者」になるだけですね。この期待と結果に対するミスマッチへの僕なりの対策ですが、「あぁ、期待通りではなかったな…。」と、“感情”と“予測”を分断するのが一番なのかと思います。「期待通りではなかった」という一つの事実として受け止め、また、気分が落ち込んでいるときは、予測が悲観的になるとことを理解して、感情を切り離すトレーニングをしてみるのが良いかと思います。
結局のところ、期待通りにいかないことを前提にして、期待通りだったり期待以上だったりしたら、素直に喜ぶのが良いでしょうな☆
【参考文献】
[The Causes and Consequences of Drifting Expectations]