思いきり全力疾走した後も筋疲労…。
以前は、「筋疲労の原因は乳酸である!」と言われておりました。
ですが、それはもう昔の話。以前は疲労物質の代表格のような存在でしたが、実は乳酸は、僕らにとってありがたい存在であるという考え方となっております。今回は、そんな「乳酸の真実」についての総論をお伝えしていきますので、どうぞご一読くださん。
スポーツ選手や筋トレをしている人は、きっと参考になると思います♪
運動後の疲労は乳酸が原因ではない
これは2025年に出た「乳酸における総論」でして、まず、前提として知ってほしいことは、僕たちの体内には「乳酸」は存在しないということです。
詳細を申し上げますと、運動中に体内で生じるのは「ラクテート(乳酸イオン)」と「水素イオン(H⁺)」の組み合わせで、この2つは形状こそ似ていますが、性質も作用も完全に別物です。簡単に言えば、「乳酸によって疲労が生じる」というのが、始めから間違っているということです。そして、「乳酸は疲労物質である」という俗説が世間に広まった理由ですが、1800年代初頭、スウェーデンの化学者ベルセリウス氏が、狩猟されたシカの筋肉から大量の乳酸を検出したところが始まったとされています。これが、「激しい運動により、乳酸が発生する」という考えが広まったとされています。
そこからさらに、ケンブリッジ大学の生理学者たちが、カエルの脚に電気刺激を与えて動かす実験をしたことによって、
- 酸素が少ないときに乳酸が増加する
- 酸素が補給されることによって乳酸が減少する
という現象が確認され、「酸素不足によって乳酸発生が発生し、筋肉が動かなくなる」という方程式が確立されたそうです。
しかし、近年の研究によって、次のような事実が明確となりました。
- 乳酸はエネルギー源である:乳酸は運動後に発生する疲労物質ではなく、体内で再利用される重大な燃料であることが判明した。特に持久力系トレーニングを多く取り入れているアスリートでは、乳酸を素早く回収しエネルギーに再利用する能力が高まっていて、ラクテートクリアランス(除去速度)の速度が非常に速いです。
- 酸素不足でなくても乳酸は発生する:実際のところ、酸素が充足していても、エネルギー供給が不十分なら、乳酸回路が作用することが判明しております。たとえば、全力疾走のように一瞬で激しい運動では、酸素供給が間に合わなく、素早くエネルギーを作るために乳酸経路が作用します。
乳酸のことについて理解が深まったかと思いますが、「だったら、運動後の疲労感はなんなんだ!」となります。
現段階で有力視されているメカニズムについては、以下のものがあります。
- 激しい運動により水素イオン(H⁺)が増加する。
- 筋肉内が酸性化する(pH値の低下)。
- 筋肉内の酸性化により、筋収縮に必要な酵素やカルシウムチャンネルが作動しなくなる。さらに、カリウムやリン酸の蓄積により収縮効率が低下する。
疲労については、「疲労の原因は乳酸にある!」のような単純なメカニズムではなく、体内で発生する様々な代謝産物が複雑に絡み合い、筋肉の機能が低下していくのです。さらに述べますと、疲労時の「灼熱感」は、単なる筋肉の問題だけではない可能性があります。たとえば、血液の酸性化によって酸素運搬能力が低下し、脳への酸素供給が減少します。これにより、中枢神経によって「これ以上の運動は危険だ!」とアラートを鳴らしているという工程が働いている可能性があるとされています。つまり、代謝産物の問題だけではなく、人体に危機があると感じた脳によるものである可能性も高いと考えられております。
実際に、ボート選手を対象にした実験によると、オールアウトレベルの運動後、血中酸素飽和度が97.5%から89.0%まで低下したという報告があり、ここまでの酸素低下は、脳機能にも影響があるのでしょう。つまり、運動による灼熱感は、身体のアラートシステムによる錯覚も大きいのです。
今回の総論をトレーニングに活用するには、どうすればよいのか?
今回の総論をまとめますと、
- 乳酸は気にしない:乳酸はエネルギーとして再利用される代謝産物なので、乳酸が溜まったと感じても、キチンと身体が機能してエネルギーになるので安心してください。
- 水素イオン対策:水素イオンの影響を減らすためには、重炭酸ナトリウム(=ベーキングソーダ)とカルノシン合成を促進させるβ-アラニンといったサプリが有効である。(ただし、これらは副作用もあり、使用する際は用量と用法を守ること。
- 「運動時の灼熱感」は限界ではない:身体の疲労感は、必ずしも筋肉が完全に限界を迎えているわけではありません。これは、脳による危険信号を出してブレーキをかけている状態なので、ここで自分を上手に誤魔化すことで、乗り越えることができます。当然ですが、痛みやケガ等の反応とは別物ですので、そこだけはご注意ください。
ということで、まずは「乳酸は筋疲労とは無関係だけでなく、エネルギーとして再利用される強い味方だ!」ということは覚えておいてください。たとえトレーニングで辛いとしても、「乳酸を使って乗り越えるときだ!」と踏ん張ると良いかもしれませんね☆
【参考文献】
[Lactic acidosis: implications for human exercise performance]