昔から、「知能は遺伝と環境の、どちらによって決定づけられるのか!?」という論争は、心理学や遺伝学の分野で長期にわたって続けられております。
知能は多遺伝子性でして、遺伝性が高く、人生のさまざまな結果を予測することができます。なので、一部の界隈では「知能は遺伝で決まるから、ダメな人間は、どんなに努力して勉強しても無駄だ!」といった感じの暴論も一定数存在しています。もちろん、知能は遺伝に影響されること自体は間違いないのですが、その具体的な仕組みや予測精度は未解明で、遺伝率を見たところで自分の知能は何もわかりません。
そうしたこともあり、「自分の知能は、どれぐらいのレベルなのか?」なんてわからないので、「自分は、どれぐらい勉強すればいいのか?」ということなんて考える参考にはならないのです。
…ということで、今回は、「知能は遺伝ですべてを判断することができないようだぞ!」っていうことをお伝えしていきます♪
知能と遺伝の関係性を重く見るべきか?
これは2024年に出たメタ分析で、いわば現段階における「知能と遺伝の関係性の最新版」と言ってよいかと思われる内容です。
このメタ分析では「ポリジェニックスコア」を研究の中心としておりまして、これは、遺伝子解析によって得られるDNAのバリエーションを集めて、特定の特性(※今回は知能について焦点を当てております)への遺伝的な傾向を数値化したものとなっております。たとえば、たくさんの人間の遺伝情報とIQスコアを比較することで、「この遺伝子変異を持つ人間は、知能が高い傾向があるな…」といった関係を発見することができます。こういったものを基に、各個人の遺伝的な「知能スコア」を計算する感じです。
研究の内容ですが、合計452,864名のデータを対象にメタ分析をおこなっておりまして、参加者全員がヨーロッパ系の「WEIRD(西洋、教育を受けた、工業化された、豊かで民主的)」社会出身で、知能は標準化されたIQテストで測定されております。
今回のメタ分析によって得られた結論は、
- ポリジェニックスコアとIQスコアの相関係数は約0.25である。これは、ポリジェニックスコアは知能の約6%を説明することを意味する。
- さらに、研究対象や方法によってポリジェニックスコアの予測精度は大きく異なり、この偏りが発生する原因は不明である。
- 言語的知能(言語を用いた推論や理解)では、ポリジェニックスコアの予測精度が高い傾向が見られた。その一方で、記憶力や一般知能に対する予測精度は低かった。
この数値について、各個人がどのように解釈するかは自由だと思います。
僕個人の意見としては、正直なところ遺伝の要素が半分近く影響するのかと思いましたが、家庭環境や教育、文化的要因が、知能の発達に大きく関与しているんだなぁ…と痛感させられましたね。となると、「IQは、遺伝で結構なほど決められてしまう!」っていうことはないってことでしょう。
まあ、世間で言う「言語化の能力」などは、遺伝の要素が強め!…ということで。
研究チームによると、
遺伝的な知能予測が強い場合、弱い場合、この状況がある理由を説明できない限り、個人レベルでの知能の差異を理解するのにポリジェニックスコアを役立てることはできないかもしれない。
とのことで、遺伝という観点で個々人の知能レベルをあーだこーだ判断することは難しいと指摘しております。
大ざっぱにまとめますが、今回の研究によって、現段階では、遺伝を個人の特性を予測するための判断材料とするのは無粋だということがわかったわけですね。ただし、ポリジェニックスコアそのものも、
- 遺伝的に知能の発達が遅れている子どもを早期に特定し、適切なサポートを提供するのに有効である可能性がある。
- 遺伝的傾向と環境がどのように相互作用しているかを調査することで、知能を高める方法を発見できる可能性がある。
という点で、遺伝と環境との関係性が理解できれば、今後の社会の発展に繋がるかもしれません。そういったことで、反対に「自分が勉強ができないのは、遺伝のせいだっ!」という言い訳もできなくなったわけで、知能に関係する類いは、日々の努力の積み重ねだという結論でもあるかな…っと☆
【参考文献】
[DNA and IQ: Big deal or much ado about nothing? – A meta-analysis]