考えないようにすればするほど、人ってそのことばかり考えてしまいます。
これは「皮肉過程理論」というものでして、「何かを考えないように努力すればするほど、かえってそのことが頭から離れなくなる」という現象を説明する理論です。有名なのはシロクマ実験でして、「シロクマのことだけは絶対に考えないでください」と言われると、逆にシロクマのことばかり考えしまう現象です。つまり、何かを考えないように躍起になると、逆に思考がそれに奪われてしまうわけです。
禁煙しようとするとタバコのことばかり考えてしまい、結局はタバコが吸ってしまう…みたいな感じです。
とはいうものの、実のところ「思考を抑制することも有効な手段なんですよ!」という実験があります。「皮肉過程理論」では「思考を抑制することに意味はない」と言いますが、意外にも思考の抑制には効果があることがわかったそうです。
今回は、そのことについて解説していきますので、どうぞよろしくお願いします!
「思考の抑制」の効果について
これは2020年に出た実験でして、60名の男女を対象に試験をおこない、参加者全員に写真を見せたあと、3つの技術のいずれかを用いて記憶をまっさらにするように指示していったそうです。
- 置き換え:画像の思考を別の思考(山やリンゴなど)と置き換える
- 消去:心からすべての思考を消去する(瞑想のようなもの)ようにする
- 抑制:いったん自分の思考に焦点を当ててから、意図的にそれを抑制するようにする
その際に、全員の脳をスキャンし、本当に思考が消え去ったかをチェックしたそうな…。
その結果、以下のようになったようです。
- 「置き換え」と「消去」のほうが、より早く思考を消すことができた
- 「抑制」は効果が出るまで時間がかかったものの、思考を完全に消し去る効果が高かった
考えないようにすればするほど、思考に囚われはしてしまうものの、その分だけ思考を消去する効果が高いみたいですねぇ。。。
これに対して研究者は、
我々のワーキングメモリー(短期記憶)には、一度に3つか4つの思考しか保存できない。
そこに新しいアイディアを出すためには、いったんワーキングメモリーをきれいにする必要がある。頭からすぐに何かを取り除きたい場合は、『消去』や『置き換え』を使ったほうがよい。
あなたの脳に新しい情報を取り込むために頭を空にしたいなら、『抑制』を使うほうがよいだろう。
一時的に物事を忘れておきたいなら「消去」か「置き換え」、アイディアを浮かべるために新しい情報がほしいなら「抑制」で完全に思考から、文字通り“取り除く”のが良いのでしょうね!
なにせ、僕らのワーキングメモリーには限界があるし、使わないといけません。ですから、生産的なことをするためにも、いったん脳の作業場をキレイにしないといけないのですよ。
研究者が言うには、『多くの人たちは、よく「この問題を解決するためにも、もっとがんばって考えなければならない!」と思う傾向にある。しかし、臨床研究では、このような「がんばって考える作業」は、あなたの視界をせまくしてしまい、むしろ抜け出すのが困難になってしまうだろう。』とのこと…。
僕らが本当に新しいアイディアを出したいと願うなら、古い考えをやめるためにも、意図的に思考の強制停止をおこなう必要があるみたいですね!
テクニックとしては、
- ネガティブ思考から一時的に脱出するなら「消去」か「置き換え」
- 仕事のパフォーマンスを向上させるなら「抑制」で新しい情報と入れ替える
が良いのかと思います。
良いアイデアを出そうと躍起になっても、ワーキングメモリーに負担がかかるだけです。
この行為はむしろ視野が狭くなってしまいますが、「抑制」で脳の作業場に余裕を持たせてあげると、それだけ多くの情報を一度にあつかえるようになります。
こうすると良いアイデアも思いつきやすくなりますんで、思考の偏りをなくすためにも、適度に思考の整理をすると良いのではないのでしょうか?
【参考文献】
[Changes to information in working memory depend on distinct removal operations]